味覚は3日で変わる。東北大が実証した舌の鍛え方
「自分は味がよく分からない。だから料理人には向いていない」
そう考えて、食の仕事を諦めかけている方がいらっしゃいます。寿司職人やソムリエのように、繊細な味の違いを見分ける仕事には、生まれ持った「神の舌」が必要だと思われているからです。
けれども、この考え方は近年の研究によってはっきりと覆されました。
優れた味覚は、2つのものでできています。1つは舌のセンサー。もう1つは、その信号を判別する脳の側です。
そして、どちらも後から変えられます。舌のセンサーは手入れで整いますし、判別する力は訓練で伸びます。生まれつきで決まっている部分は、思われているより小さいのです。
しかも、変化に必要な期間は驚くほど短いことが分かっています。3日間の訓練で、薄い味を見分けられるようになる。これが実際に測られた結果です。
この記事では、味覚が後から鍛えられる仕組み、味覚を鈍らせている原因、そしてプロが実際に行っている訓練の中身をお伝えします。
結論:3日間の訓練で、味覚の感度は測れるほど上がった
先に結論をお伝えします。
2025年11月、東北大学大学院医学系研究科の臨床障害学分野の研究グループが、国際的な学術誌に成果を発表しました。海老原覚教授と朴依眞さんらによるものです。
内容は、味を思い出す訓練によって、成人の味覚の感度がはっきり向上したというものです。この結果は新聞でも取り上げられ、味覚が経験によって変わる性質を持つことが広く知られるきっかけになりました。
何をどう調べたのか
これまでの味覚の研究は、甘味と苦味のように、まったく違う味を見分ける仕組みを中心に扱ってきました。
ところが、料理人が現場で実際にやっているのは、そういう作業ではありません。同じ甘味の中で、砂糖の甘さと果糖の甘さの違いを見分けるような、細かい判別です。
この研究は、その細かい違いを人が見分けられるのか、そして訓練で感度が上がるのかを、客観的な指標で確かめた最初の試みでした。
対象は健康な成人40名です。男女20名ずつを、訓練するグループ20名と、しないグループ20名に無作為に分けました。年齢、性別、体格、口の中の水分量、そして最初の味覚の感度に、2つのグループで差がないことを確認したうえで比べています。
使った甘味は5種類。ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖です。いずれも化学的な構造が違います。
測り方は、味の物質をしみ込ませたろ紙を舌の特定の場所に当てるという方法です。これで、その人が味を感じ取れる最も薄い濃さを数字で測ります。この数字が小さいほど、薄い味まで感じ取れる、つまり感度が高いことになります。
訓練の中身は、思い出すことだった
訓練するグループには、3日間連続で次のことをしてもらいました。
まず初日に、5種類の甘味それぞれについて、その人が感じ取れる限界の濃さを測ります。
そのうえで、自分の限界より1段階薄い濃さの甘味を、順番をばらばらにして何度も味わってもらいます。そして、いま味わったのが5種類のどれだったかを思い出して答え、正解と照らし合わせる。これを繰り返しました。
一方、しないグループは、初日と4日目に測るだけです。
結果
3日後、訓練したグループは 5種類すべての甘味で、感じ取れる限界の濃さがはっきり下がりました。統計としても意味のある差が出ています。
つまり、同じ甘味の受け皿に働く物質であっても、脳の中にある味の記憶を引き出す訓練を3日繰り返すだけで、ごくわずかな違いを見分けられるようになるということです。
3日でセンサーが作り替わるわけではありません。動いたのは、信号を判別する脳の側です。わずか3日で、脳は薄い違いを拾えるようになりました。
話を2つに分けて進めます
ここから先を読みやすくするために、先に整理しておきます。味覚の話は、次の2つに分かれます。
1つ目は、舌のセンサーの状態です。味を受け取る器官が、ちゃんと働いているかどうか。ここは栄養や生活習慣で上下します。誰でも整えられる部分です。
2つ目は、受け取った信号を判別する力です。似た味の違いを見分け、記憶と照らし合わせて名前をつける。ここは訓練で伸びます。プロとそうでない人の差が出るのは、主にこちらです。
この記事では、1つ目(センサーの状態)と2つ目(判別する力)を、行き来しながら見ていきます。「自分は味が分からない」という悩みは、どちらか一方、あるいは両方に原因があります。そして、どちらも手を打てます。
ここで1つ、先にお伝えしておきます。さきほどの「感じ取れる限界の濃さ」は、2つの合計で決まります。センサーが鈍っても上がりますし、判別する力が伸びれば下がります。この記事にはどちらの話も出てきますので、そのつど、どちら側の話をしているかをお示しします。
舌のセンサーは、2週間で入れ替わっている
ここからは、1つ目の話です。舌のセンサーがどうなっているのかを見ていきます。こちらも、思っているより早く入れ替わります。
舌の表面には小さな突起がたくさんあり、その中に味を感じ取る器官があります。「味蕾(みらい)」と呼ばれるものです。健康な成人の口の中には、およそ7,000個から10,000個あるとされています。
1つの味蕾は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つを受け取る細胞が、50個から100個ほど集まってできています。花のつぼみのような形をしていることから、この名前がつきました。
ここで注目していただきたいのが、この細胞の入れ替わりの速さです。
人の皮膚がおよそ28日で生まれ変わるのに対して、味を感じる細胞は10日から14日で入れ替わります。
かなり速い循環です。熱いスープ、氷のように冷たい飲み物、強い香辛料。舌は日常的にこうした刺激を受け続けています。そのダメージから感度を守るために、体は絶えず新しい細胞に置き換えているわけです。
飲食人大学の3ヶ月という期間に当てはめると、在学中に味覚のセンサーは6回から9回、まるごと入れ替わる計算になります。この期間の食生活が、新しいセンサーの状態を決めます。
これは裏を返せば、鈍らせるのも同じ速さだということです。整えた状態を保つには、卒業後も続ける必要があります。ここが、先ほどお伝えした2層のうち「土台」にあたる部分です。
亜鉛が足りないと、入れ替わりが遅くなる
この入れ替わりに欠かせないのが、亜鉛という栄養素です。
細胞が分裂し、たんぱく質を作り出すときに、亜鉛がないと働きが進みません。体の中の亜鉛が不足すると、入れ替わりの周期が異常に長くなります。
すると何が起きるか。機能の落ちた古い細胞が、舌の上に居座り続けます。センサーとしての感度が、根本から下がってしまいます。
さらに近年では、亜鉛の役割はそれだけではないことも分かってきました。舌から脳へ味の信号を送る過程でも、亜鉛が関わっている可能性が指摘されています。動物を使った研究では、亜鉛が不足すると舌の神経の反応そのものが鈍ることが示されています。
味覚を鈍らせている4つの原因
先ほどお伝えしたとおり、味覚には「センサーの状態」と「判別する力」の2つがあります。ここから見ていくのは、センサーの状態を下げている原因のほうです。こちらは生活習慣で戻せる部分が大きいので、先に潰します。
原因は主に4つに分けられます。
1. 亜鉛不足
味覚の不調の原因として、最も多く確認されているのが亜鉛の不足です。
日本の食事は、欧米に比べて亜鉛の量が少ない傾向があります。加えて、レバー、牡蠣、チーズ、海藻、ナッツといった亜鉛を多く含む食品を避けていると、簡単に足りなくなります。
現代ならではの落とし穴もあります。加工食品に使われる一部の添加物や、穀類や豆類に含まれる成分が、腸の中で亜鉛と結びついて体の外へ出してしまうのです。血液検査では正常でも、舌の組織では足りていないという状態が起こりえます。気になる場合は、自己判断で補うのではなく医療機関にご相談ください。
2. 喫煙
タバコは2つの経路から味覚を下げます。
1つは化学的な経路です。タバコを吸うと体内で活性酸素が大量に生まれます。これを無害にするために、体は亜鉛を大量に使います。その結果、味蕾を作り直すために使われるはずだった亜鉛が枯れてしまいます。
もう1つは物理的な経路です。タバコに含まれるタールが舌の表面に付着し、膜を作ります。この膜が、唾液に溶けた味の物質が細胞に届くのを遮ります。さらにタールは口の中を乾かすため、味の物質を運ぶ唾液の働きも落ちます。
ある研究では、喫煙する男性の味覚の限界値は、吸わない人と比べて一貫して高い、つまり味が分かりにくい傾向にあることが報告されています。
3. 加齢
年齢とともに、味蕾の数は減っていきます。
古典的な解剖学の研究によれば、高齢期には突起あたりの味蕾の数が、244個程度あったものが88個程度まで減るとされています。おおよそ3分の1です。
味覚の不調を訴える方は60代から70代をピークに増え、味覚の外来を受診する方のおよそ半数を65歳以上が占めています。
ただし、これは数だけの問題ではありません。唾液の量が減ること、持病の薬の影響で亜鉛が体の外へ出やすくなることなどが、重なって効いています。つまり、対処できる部分が残っているということです。
そしてもう1つ。味蕾が減っても、後半でお伝えする「判別する力」のほうは訓練で伸びます。センサーの数が減った分を、こちらで埋められるということです。年齢を重ねた料理人が若手より味を的確に言い当てるのは、この差によるところが大きいと考えられます。
4. 濃い味への慣れ
4つ目が、いちばん身近な原因です。
強い塩味、過剰な甘味、大量のうま味調味料。こうした味に囲まれていると、味の受け皿がその刺激を「普通の状態」として設定し直してしまいます。
すると、感じ取れる限界の濃さが上がります。こちらはセンサー側の変化です。より濃い味でないと、味として届かなくなるということです。
この状態では、昆布や鰹節でとった一番出汁の繊細な風味も、白身魚そのものが持つかすかな甘みも、感じ取ることが難しくなります。
料理人を目指すなら、まず自分の食事を薄味に戻して、この慣れを解くところから始めます。
プロが実際に受けている訓練
味覚を職業にしている人たちは、どんな訓練をしているのでしょうか。
五味識別テストという方法
代表的なのが「五味識別テスト」です。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つを、極めて薄い水溶液で見分ける試験です。
ここで面白いのは、5つの味で感じ取れる限界の濃さが、まったく違うということです。感じにくい順に並べると、甘味、塩味、うま味、苦味、酸味となります。
なぜこんなに差があるのか。人の生存本能に根ざしています。
甘味は活動の元になる糖の、うま味は体を作るたんぱく質の合図です。安全にたくさん摂るべき栄養なので、微量に反応する必要がありません。だから鈍く設定されています。塩味も、体に欠かせないミネラルの合図という点で同じ側にあります。
一方、酸味は食べ物が腐っている合図で、苦味は毒の合図です。体に入る前に、ごく微量でも察知して吐き出せなければ命に関わります。だから、この2つは他の味より敏感に進化してきました。
実際の試験では、次のような濃さが使われます。
| 味 | 使う物質 | 試験の濃さ | 練習用の濃さ |
|---|---|---|---|
| 甘味 | ショ糖 | 0.400% | 0.800% |
| 塩味 | 食塩 | 0.130% | 0.260% |
| うま味 | グルタミン酸ナトリウム | 0.050% | 0.100% |
| 苦味 | カフェイン | 0.025% | 0.050% |
| 酸味 | 酒石酸 | 0.005% | 0.010% |
甘味の0.4パーセントに対して、酸味は0.005パーセント。80倍の薄さで試されます。
一般の方なら「ただの水」としか感じない濃さです。これらを完全に見分け、しかも正確な言葉で説明する力が求められます。
香りの訓練も並行して行う
味わいの大部分は、実は香りが作っています。そのため、プロは香りの訓練も並行します。
ワインの世界では、数十種類の香りのエッセンスが入った小瓶のセットを使い、日常的に嗅ぎ分ける練習をします。果実、花、香辛料、樽。ぼんやりとしか捉えられていなかった香りを、1つずつ確かめて、言葉と結びつけていきます。
ここが訓練の中身です。薄い味に気づけるようになるのは結果であって、鍛えているのは「感じた弱い信号を、脳の中で特定の記憶と結びつけて、名前をつける力」のほうです。
甘味以外でも、同じことが確かめられている
東北大学の研究は甘味に絞ったものでした。甘味以外はどうなのか。この点は、3年前に発表された別の研究がすでに調べています。
2022年8月、東邦大学医学部と東北大学大学院医学系研究科の共同研究グループが、国際的な学術誌に発表したものです。
健康な成人42名を、訓練するグループ21名としないグループ21名に無作為に分けました。訓練するグループには、甘味、塩味、酸味、苦味の4つを使い、次の4段階の訓練をしてもらいました。
- まず、それぞれの味について、その人が味だと分かる限界の濃さを測ります
- 次に、限界の濃さと、それより1段階濃い液を並べて、どちらがどちらかを当てるまで照らし合わせます
- 続いて、1段階薄い液と1段階濃い液を並べて照らし合わせます
- 最後に、限界の濃さと1段階薄い液を並べて照らし合わせます
これを、完全に一致するまで繰り返しました。
その結果、3日間の訓練を終えた4日目の時点で、4つの味すべてで感度がはっきり向上しました。
最初の感度に差がなかった2つのグループに、短期間でこれだけの差が生まれたわけです。味覚の鋭さが、生まれつきではなく、後からの訓練で変えられることを示す強い証拠になっています。
これは、音楽家が訓練を積むことで、細かい音の違いを聴き分けられるようになるのと同じ仕組みです。
寿司職人の仕事で、味覚はどこで必要になるか
では、実際の現場で味覚はどの場面で使われるのでしょうか。工程ごとに見ていきます。
シャリの調整
寿司の味の6割から7割を決めると言われるのがシャリです。
炊いた米に、塩、酢、砂糖を店ごとの比率で混ぜた合わせ酢を切り混ぜて作ります。ここで職人は、季節による米の水分量の違いや、その日に仕入れた魚の脂の乗り具合に合わせて、塩気と酸味のバランスを細かく調整します。
温度も重要です。冷や飯ではなく、人肌の36℃から40℃を保ちます。この温度帯だと、口に入れた瞬間に米粒がほどけ、酢の香りが鼻へ抜け、計算された塩味がネタの甘みを引き立てます。
この数字については、【寿司の握り方のコツ】センス不要!「15gと36℃」の法則で誰でもプロ級になれるで詳しく解説しています。合わせ酢の配合は酢飯の黄金比|分子調理学が解き明かす「3ヶ月で寿司職人」の秘密をご覧ください。
光物の締め加減
江戸前の仕事で腕がいちばん出るのが、コハダやアジ、サバといった光物の「締め」です。
魚は工業製品ではありません。同じ海で獲れたものでも、1尾ずつ脂の乗りも身の厚さも違います。名人と呼ばれる職人は、その日の魚の状態に加えて、外の気温や湿度まで考えて、塩を振る時間を12分から25分のあいだで分単位で調整すると言われています。
塩の浸透圧で余分な水分と生臭さを抜き、そのあと酢に漬けてたんぱく質を固め、うま味を凝縮させます。塩が強すぎたり時間が長すぎたりすれば、身が塩辛くパサつきます。酢が弱ければ生臭さが残ります。
数時間後、あるいは数日後に、お客様の口に入ったときの味のピークがどこに来るか。それを逆算しながら調整する作業です。脳に蓄えた味の記憶と、目の前の食材を照らし合わせる、高度な判断になります。
魚の熟成の仕組みについては、【魚の熟成の仕組み】なぜ「寝かせると美味くなる」のか?職人の勘を数値と理屈で解明もあわせてご覧ください。
煮切り醤油の調合
本格的な江戸前の店では、お客様が自分で醤油をつけることは少なくなります。職人が握りの最後に、刷毛でネタにさっと塗る特製の醤油があるからです。「煮切り」と呼ばれます。
煮切りは生醤油ではありません。濃口醤油に酒とみりんを決まった比率で加え、店によっては一番出汁も合わせて、火にかけてアルコールと角の立つ香りを飛ばし、まろやかに仕立てたものです。たとえば醤油50ミリリットル、酒10ミリリットル、みりん5ミリリットル、これに一番出汁を10ミリリットルほど合わせるといった配合になります。
役割は、魚の脂を適度に包みながら、シャリの酸味とネタのうま味をつなぐことです。
職人が煮切りを塗って出した一貫は、「これ以上何も足さず、このままが一番良い」という合図でもあります。塩気の抑え方とほのかな甘みのバランスに、その職人の考え方が表れます。
「味が分かる」とは、どういう状態か
ここで、言葉の中身を整理しておきます。ここで、2つ目の「判別する力」をもう少し細かく見ます。この力は、3つの段階に分かれます。
1段階目は、違いに気づくことです。AとBを並べて、何かが違うと分かる。ここは比較的すぐにできるようになります。
2段階目は、どちらがどうなのかを言えることです。Aのほうが甘い、Bのほうが酸っぱい。方向まで指せる段階です。
3段階目は、名前をつけられることです。この甘さは果糖に近い、この酸味は酢というより柑橘だ。記憶にある味と結びつけて言葉にできる段階です。
プロが訓練しているのは、主に3段階目です。そして東北大学の研究で行われた「思い出して答え合わせをする」という訓練も、まさにここを鍛えるものでした。
先ほどの4つの原因を取り除いたあとも「味が分からない」と感じる場合、詰まっているのはたいてい3段階目です。違いには気づけているのに、それが何なのかを言い当てられない。足りていないのは、感じたものに名前をつける経験のほうです。
そして名前をつける経験は、意識すれば今日からでも増やせます。ただし1人でやると、答え合わせができません。研究が効果を出した手順にも、必ず正解を返す工程が入っていました。何かを食べたときに「おいしい」で終わらせず、甘いのか、塩気なのか、酸味なのか、うま味なのかを言葉にしてみる。この積み重ねが、そのまま訓練になります。
職人が味を確かめる場面は、思っているより多い
寿司職人の仕事は、握って出すだけではありません。味を確かめる場面は1日のうちに何度も訪れます。
仕込みの段階で確かめます。合わせ酢の味、煮切りの味、ツメの煮詰まり具合、あら汁の塩気。それぞれに狙った状態があり、そこに届いているかを口で確認します。
魚の状態を見るときにも使います。熟成の進み具合は、見た目と触った感触だけでは判断しきれません。切れ端を口に入れて、うま味がどこまで出ているかを確かめます。
お客様に出す直前にも確かめます。その日のシャリの温度と、ネタの脂の乗り具合が合っているか。合っていなければ、握り方や煮切りの量で微調整します。
つまり味覚は、才能を披露する場面で使うものではなく、判断のために毎日使う道具です。道具であれば、手入れをして精度を上げることができます。
運動でも味覚は変わるという報告がある
もう1つ、意外な角度からの研究をご紹介します。
2025年12月に発表された探索的な研究では、運動の習慣が味覚に与える影響が調べられました。強度の高い運動を短い間隔で繰り返す形式と、中程度の強度を続ける形式の2つで比べたものです。
結果、苦味の感じ方には変化が見られませんでしたが、甘味を感じ取る限界の濃さが下がる、つまりより薄い甘味に気づけるようになることが分かりました。
また別の共同研究では、舌そのものを動かす訓練や味の刺激が、顔の神経を活性化させ、満腹感に関わるホルモンの分泌を促す可能性も示されています。
これらの研究に共通しているのは、センサーの状態が、食べもの以外の要素でも動くという点です。生活習慣で整えられる範囲は、思っているより広いということになります。
3ヶ月で、舌はどう変わるか
飲食人大学の寿司マイスター専科は、修学期間が3ヶ月、実技は60日、420時間です。月曜から土曜の週6日、朝9時から16時が授業の時間です。
1ヶ月目は、味の土台を作る時期です。米の種類と見分け方、酢の使い分けを覚え、アジや海老を比べながら、魚によって味がどう変わるのかを口で確かめます。包丁の研ぎ方もここで学びます。
2ヶ月目は、味の引き出しが増える時期です。ヒラメ、カツオ、タコ、サバ、アワビ、スズキ。それぞれ脂の乗りも身の締まりも違います。魚市場での仕入れ実習で、目利きの感覚も鍛えられます。
3ヶ月目は実践です。市場で鮮魚を箱買いして、買ってきた分をすべてさばきます。コースの組み方を学んだうえで、実際にお客様をお招きして提供する授業も行います。
期間中に扱う魚は40種類以上。各クラスの定員は最大16名です。
この3ヶ月のあいだ、通う日ごとに味を分解して、記憶して、言葉にする作業を繰り返します。そして講師が、その場で正解を返します。煮切りが濃いのか薄いのか、合わせ酢の酸が立ちすぎているのか。研究の手順でいう答え合わせの部分が、毎回入るということです。
30年の料理人が驚いた、指導の細かさ
実際に学ばれた方の言葉をご紹介します。

今井栄吾さんは、およそ30年にわたって料理人として働いてこられた方です。洋食屋、和食屋、カフェ、居酒屋と、幅広い現場を経験されています。そのうえで飲食人大学に入学されています。
ベテランであるこの方が、指導の細かさに驚いたと語っています。寿司を握るサイズはセンチ単位。米の水を切る時間は分単位。水の量は1グラム単位。感覚に任せる部分が、ほとんど残されていませんでした。
卒業後は、経営していた居酒屋を6席に縮小し、神戸・須磨で「鮨なし川」を開業されています。居酒屋時代におよそ2,500円だった客単価は、現在1万円を超えるまでになりました。
味が分かるようになると、仕事の幅が変わる
最後に、この先の話を少しだけ。
味を細かく捉えられるようになると、できることが増えます。
同じ味を毎日再現できるようになります。その日の米や魚の状態が違っても、狙った味に寄せられます。店の看板を守るのは、この再現の力です。
自分で調整できるようになります。教わった配合をそのまま使うだけでなく、脂の乗った魚には塩気を控える、寒い日にはシャリの温度を上げる、といった判断ができます。
新しいものを作れるようになります。独立して自分の店を持つとき、メニューはご自身で組み立てることになります。味の引き出しが多いほど、選べる幅が広がります。
そして海外へ出る場合も、この力は効いてきます。現地で手に入る魚は日本と違います。同じ配合が通用しない場面で、味を確かめながら合わせていく作業が必要になります。
飲食人大学には海外就職コースがあり、語学の支援と、海外専属のキャリアコーチによるビザ取得の支援を受けられます。台北とバンコクにも拠点があります。
舌を鍛えることは、働ける場所を広げることでもあります。
よくある質問
Q. 味音痴でも料理人や寿司職人になれますか
研究によれば、3日間の訓練で薄い味を見分けられるようになった例があります。3日でセンサーが作り替わるわけではないので、動いたのは判別する側です。ここは何歳からでも鍛えられます。まずは薄味に戻して、濃い味への慣れを解くところから始めてみてください。
Q. 味覚を鍛えるために家でできる訓練はありますか
意識して五味を1つずつ味わうこと、薄味の料理を選ぶこと、白い食材そのものの味を確かめること、よく噛むこと。こうした方法が挙げられています。食事のたびに「いま何の味を感じているか」を言葉にする習慣も、出発点としては有効です。ただし1人だと正解が返ってこないので、途中から伸びが止まります。
Q. 味覚を良くするために亜鉛はサプリメントで摂ったほうがいいですか
食品から摂ることが基本になります。レバー、牡蠣、チーズ、海藻、ナッツ類に多く含まれます。なお、味覚の不調が続く場合は自己判断せず、医療機関にご相談ください。この記事は情報の提供を目的としたもので、診断や治療についてお伝えするものではありません。
Q. 年齢が高くなってからでも味覚は鍛えられますか
味蕾の数は年齢とともに減りますが、唾液の量や薬の影響など、対処できる要因も重なっています。訓練で感度が上がった研究は、健康な成人を対象にしたものです。年齢だけを理由に諦める必要は薄いと考えられます。
Q. 味覚の訓練を始める前に生活で直すべきことはありますか
4つあります。濃い味に慣れていないか、亜鉛を含む食品を摂れているか、喫煙の習慣があるか、口の中が乾いていないか。このうち、いちばん早く効くのは薄味に戻すことです。受け皿の設定が濃い味に寄っていると、訓練の効きが鈍ります。先に薄味へ戻しておくほど、伸びは大きくなります。
Q. 風邪のときのように一時的に味が分からなくなるのはなぜですか
一時的な変化と、慢性的な低下は別のものです。症状が長く続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。この記事は情報の提供を目的としたもので、診断や治療についてお伝えするものではありません。
Q. 味覚を鍛えると普段の食事の感じ方も変わりますか
味を分けて捉える習慣がつくと、同じものを食べても感じ取れる情報が増えます。研究でも、味の訓練とあわせて認識に関わる働きが高まることが観察されています。仕事のためだけではなく、日々の食事の受け取り方が変わる部分でもあります。
Q. 寿司職人の学校の学費はいくらですか
寿司マイスター専科の授業料は968,000円、入学金は0円です(税込)。実技の420時間で割ると、1時間あたりおよそ2,305円という計算です。
まとめ:舌は、意識して育てられます
振り返ります。
「自分の舌に自信がない」という悩みは、料理人としての適性が欠けていることを意味しません。
味を感じる細胞は10日から14日で入れ替わっています。亜鉛を意識した食事に整え、喫煙や濃い味への慣れを解くだけでも、本来の感度は戻ってきます。
そのうえで、東北大学や東邦大学の研究が示したのは、土台が落ちても、脳の側で埋められるということでした。限界より薄い違いを記憶し、脳から引き出し、目の前の感覚と照らし合わせる。ソムリエや一流の料理人が持つ鋭い味覚は、この訓練の積み重ねで作られたものです。
3日間で結果が出ています。ただし研究の3日間は、甘味だけを、決まった手順で測った3日間でした。飲食人大学で確かめるのは、魚の脂、酢の酸、煮切りの塩気と、対象がそのつど変わります。同じ手順を、種類の数だけ通す。3ヶ月という長さは、そのために要る時間です。
味が分からないと感じているなら、それは出発点です。訓練の余地が大きく残っているということでもあります。
しかも、この訓練に締め切りはありません。判別する力のほうは、何歳からでも伸ばせます。センサーは手入れで整え、判別する側は使うほど伸びる。始めた時期にかかわらず、続けた分だけ積み上がっていく種類の力です。
まずは資料をご覧ください。授業の流れと費用が載っています。
