「寿司をもっとカジュアルに」あえて中価格帯の寿司屋の可能性に挑戦する、稲田亮さんの戦略

稲田亮さん(いなだ・りょう)
高校卒業後から飲食業界に従事し、2023年には自身のうどん屋を愛媛県松山市で開業。顧客層、単価、営業時間などに課題を感じ、打開策として考えたのは「気軽に行ける価格帯の寿司屋」。回転寿司でも高級寿司でもない、カジュアルなお店をコンセプトに2025年5月にリニューアルした「ウオヒヒ」の現在とこれからを探っていきます。
《経歴》
2009年3月〜 高校卒業
2009年9月〜 飲食店勤務
2017年9月〜 飲食店プラットフォーム運営会社勤務
2023年1月〜 うどん屋を開業
2025年1月〜 飲食人大学(大阪校)寿司マイスター専科で修業
2025年5月〜 愛媛県松山市で「鮨×天ぷら ウオヒヒ」オープン
35歳、松山で「気軽に行ける寿司」をつくる
——まずは自己紹介と、現在のお仕事を教えてください。
現在35歳、愛媛県松山市で「ウオヒヒ」という寿司と天ぷらのお店を経営しています。2025年5月にオープンし、現在は店舗全体の責任者として、仕入れ・仕込み・握り・サービス設計まで一貫して担当しています。
席数は約20席(カウンター9席、テーブル席含む)、お寿司も天ぷらも1品からオーダー可能、1時間で完結するお手軽なコースメニューなど、とにかく「気軽に行ける寿司屋」を目指しています。

「高級でも回転でもない」——業態転換の理由
——なぜ寿司×天ぷらという形にしたのでしょうか。
もともと同じ場所で深夜営業のうどん店を経営していましたが、深夜営業のうどん店で体力・客層・単価の課題を実感しました。 そこで、リサーチを続けた結果、より可能性を感じたのが「気軽に行ける価格帯の寿司」でした。
安さ一辺倒でもなく、コース中心の高級路線でもない、 “同世代が背伸びしすぎずに楽しめる寿司”をつくりたいと考えました。お店とともに自分も、同世代も一緒に成長できるような場にして行きたいです。
地元で気軽に食事にも飲みのシーンにも対応できる構成がいいなと思い、現在の寿司と天ぷらを組み合わせた業態にしています。

短期集中で“正しい基本”を体に入れる
——飲食人大学での学びは、どのように活きていますか。
包丁の扱い、酢飯の扱い、衛生管理、所作、段取りなど、基本を毎日の反復で徹底的に身につけました。
当店は来店時間も注文内容も多様な大衆スタイルです。ピーク帯は1人で切り盛りする場面もありましたが、オープン直後に提供スピードや段取りの構築を磨き上げた甲斐もあってか、味と仕事の正確さを評価していただくことが多いです。
学校で学んだ提供順序や段取りの組み方をベースにしながら、「基本に立ち返れば結果が出る」という実感を得ることができました。
季節の魚に対応する力
——現場での対応力は、どのように磨かれたのでしょうか。
魚は季節によって種類が変わるため、卒業後に魚屋で実地経験を積みました。
1日に数十尾の魚を三枚おろしし、数を重ねる中で手の速さと正確さを鍛えました。
在学中に「1人1尾を最初から最後まで」扱う経験があったおかげで、現場でも即戦力として動けたと感じています。
今でも新しい魚が届いた際は、基本に立ち返り、最適なさばき方を探すよう心がけています。

“自由度の高い寿司”で新しい体験を
——お店の特徴や楽しみ方を教えてください。
寿司も天ぷらも一品から注文できるスタイルで、気軽に楽しんでいただける点が特徴です。
コース中心ではなく、来店時間やシーンに合わせて自由に過ごしてもらえるよう意識しています。
「今日は少しおいしいものを食べたい」という日常の延長線上にある寿司店として、幅広いお客様にご利用いただいています。
カウンターが主役——寿司の“ハードル”を下げたい
——店づくりで大切にしていることを教えてください。
寿司はもっと気軽で開かれた食だと考えています。
そのため、カウンターで目の前で握ることにこだわりつつも、敷居の高いイメージを少しずつ変えていきたいと思っています。
江戸前の基本を大切にしながら、誰もが「今日は寿司にしよう」と言える街の文化を、松山からつくっていくことが目標です。
現在のネタは約20種類。毎日仕入れて毎日さばくことで、価格帯に対して鮮度と満足度の最大化を目指しています。

これからの展望とメッセージ
——今後の目標と、入学を検討している方へのメッセージをお願いします。
「ウオヒヒ」というブランドの多店舗展開も視野に入れ、中価格帯の寿司の可能性をさらに広げていきたいと考えています。
3か月間の学びは、必ず将来の力になります。開業でも就職でも、まずは正しい基本を体に入れることが何よりの近道です。
もし開業を考えている方がいれば、「借りる資金は将来の自分への前払い」と思って、ぜひ挑戦してみてください。私自身、その一歩で景色が大きく変わりました。

