子どもの未来を広げるため、寿司職人としてカナダへ。未経験から海外で働く寿司職人のリアルとは。
武井輝さん(たけい・ひかる)
未経験から寿司職人を目指し、現在はカナダ・モントリオールの高級寿司店「桶屋久次郎」で活躍している武井輝さん。背景には「子どもを海外で育てたい」という強い想いと、それを実現するための大胆な決断がありました。世界に飛び出した彼の挑戦の軌跡と、海外で働く寿司職人のリアルに迫ります!
《経歴》
2010年4月 精密機器メーカーに就職
2013年4月 自動車部品メーカーに就職
2016年3月 自動車部品メーカーに就職
2024年7月 飲食人大学(淡路島校)寿司マイスター専科で修業
2024年9月〜 カナダの高級寿司店「桶屋久次郎」で勤務
子どもの未来を広げるために!海外移住への想い。
——飲食人大学に「入学されるまでの経緯やご経歴」を教えてください。
入学する前は、大学を卒業して一般企業で働いていました。車関連の会社で、寿司とはまったく関係のない業種でした。
家族で「海外で子どもを育てたい」という気持ちがあり、色々調べたところ、カナダでは寿司職人としての仕事があると聞きました。それで「じゃあ挑戦してみよう」という流れになりました。
——寿司職人を目指そうと決意されたのは、海外での仕事の可能性が大きかったと思いますが、それ以外に「寿司が好きだった」「料理が得意だった」といった理由もありましたか?
寿司は小さい頃からずっと好きだったのですが、料理経験はまったくありませんでした。包丁を持ったことすらないくらい、本当に初心者でしたね。
——お子様を海外で育てたいと思われた理由や、きっかけについて教えていただけますか?
やはり日本では、日本語しか話せない人が多く、英語を話せる人が少ないと感じていました。英語を話せるようになると視野が広がると思います。今いる場所はフランス語圏なので、フランス語と英語の両方を話せるようになれば、子どもが将来働くときに少しでも有利になるのではないかと考えました。
飲食人大学を選んだ決め手は「短期間で学べる実践環境」
——寿司職人を目指すにあたって、「飲食人大学」で学ぼうと思った理由を教えてください。
飲食人大学を選んだ理由ですが、最初は近くの寿司店で直接修行することも考えました。ただ、短期間での習得は難しいと言われ、通常1年から2年かかると聞きました。そのときちょうどビザの申請中で、いつビザが下りるか分からなかったので、できるだけ短期間で学べる場所を探していました。
飲食人大学もそうですが、東京や大阪にも寿司の学校はありましたが、私は三重に住んでいたため通うのが難しく感じました。一方で、淡路島の飲食人大学は寮があり、海が近いことから鮮度の良い魚を扱える環境だと思いました。また、調べたところ、座学よりも魚をさばく実践的な練習に力を入れている点が自分に合っていると感じ、「ここだ」と決めました。
——実際に「飲食人大学」に入学してみて、いかがでしたか?
入学当初は全くの未経験だったので、ついていけるかどうか不安でした。魚に触れるのも初めてだったので、「本当にやっていけるのかな」と思っていました。しかし、淡路島校は少人数制で、私のクラスは6人だったため、先生との距離が近く、講師の小川先生がとても熱心に指導してくださいました。また、市場に行って自分で魚を選び、仕入れるといった実践的な経験もでき、とても貴重な体験をさせていただきました。
——未経験からのスタートということで苦労された部分もあったかと思いますが、特に印象に残っていることや、「この授業をやって良かった」と感じたことはありますか?
一番印象に残っているのは、初めて魚を触ったときのことです。腹を切った際に内臓が出てきたことが衝撃的で、「これ、本当に自分にできるのかな」と思いました。しかし、やっているうちにどんどん慣れていきました。1週間も経たないうちに、もう内臓を見ても全然平気になり、何とも思わなくなりました。そのとき、「何かをできるようになるって、こういうことなんだな」と実感しましたね。
卒業1週間後には海外へ!寿司職人としての新たなスタート。
——飲食人大学「卒業後の進路」を教えてください。
2024年9月20日に飲食人大学を卒業し、その1週間後の27日にはモントリオールに移住しました。そして翌日から、日本食料理のお寿司屋さんで働き始めました。
通常、初めは洗い場から始めることが多いのですが、飲食人大学を卒業し、寿司を握った経験があることを評価していただき、少し練習をした後、すぐにお客さまの前で寿司を握らせてもらえるようになりました。現在は軍艦巻きの担当で、カウンターで直接お客さまにお寿司を提供しています。
——お店にはどのような経緯で就職されたのか教えていただけますか?
妻が以前ワーキングホリデーでバンクーバーに滞在しており、その際に知り合った方から「お寿司屋さんで働いている知り合いがいるよ」と紹介してもらったのがきっかけです。
そのお寿司屋さんからは、「女性だと力作業が多く大変だから、旦那さんがもしできるなら試してみてほしい。やってみて適性があれば雇う」というお話をいただきました。そこから現在の仕事に繋がっています。
——就職前にお店の方と技術面でのすり合わせやお話があったかと思いますが、飲食人大学についてお話しされたことはありますか?
オーナーが日本人で、飲食人大学のことを知っていました。もう1箇所の寿司学校のことも知っており、どちらかの学校を卒業していれば時給や月給が上がると言われました。おそらく、飲食人大学とその学校の信頼度が高いためだと思います。
だからこそ「絶対に卒業しなくては」と思っていました。そして、飲食人大学で3ヶ月間頑張ったからこそ、就職がスムーズにできたと思います。
——飲食人大学の学びの中で、今の仕事に活かせていることはありますか。
本当に全てが役立っていると感じています。お店によって魚のさばき方やシャリの炊き方などに少し違いはありますが、基本的な技術は同じです。魚をさばく技術や寿司を握る技術、どれも飲食人大学で学んだことがしっかり活かされています。実際、無駄なことは一つもなかったと感じています。
厳しさと成長の両立!海外ならではのシビアな現場。
——今のお寿司屋さんの名前と、その特徴について教えていただけますか?
現在働いているお店の名前は「桶屋久次郎」といいます。このお店は1人あたりのコースが約300ドルで、チップを加えると1人4万〜5万円ほどの高級寿司店になります。お客さまの目の前で寿司を握るスタイルのお店で、完全予約制です。そのため、ふらっと立ち寄ることはできず、主にアニバーサリーや誕生日のお祝いで訪れるお客様が多いです。
——お店の客層はどのような方がいらっしゃるのでしょうか?
やはり、富裕層の方が多いです。ジャケット着用など、服装にも気を使うようなお店ですね。
——その中で、すぐに板場に入ってお寿司を提供しているということですよね。すごいですね!
ありがとうございます。実は、ここでの仕事にはトライアル期間があり、日本と全然違うなと思ったことがあります。日本では、使えなくても簡単にクビになることはあまりないと思いますが、こちらでは「明日から来なくていいよ」と言われるのが普通です。実際、私が就職してまだ1ヶ月ですが、もう5〜6人のスタッフが「もういいよ、来なくていい」と言われて去っていきました。やはり、厳しい世界だと実感しています。
——今の仕事のやりがいや、仕事において大切にされていることを教えてください。
お店に来るお客様のほとんどが外国人で、日本=寿司という強いイメージを持っている方ばかりです。だからこそ、私はお客様に純粋に日本食や寿司を楽しんでほしいと感じています。特に、お客様と50センチも離れていないくらい目の前で握っているので、「ナイス!」とか「デリシャス!」といった言葉をもらうと、やっててよかったなと感じ、すごくやりがいを感じます。
——海外の方と接する際に気をつけていることや、大切にされていることはありますか?
大切にしていることは、やはり日本のお店が持つ細やかな気配りとおもてなしの精神です。日本では、お客様に対して本当に細かいところまで気を使う文化が根付いていて、米粒一つが皿についているだけでも気にするほどです。こうした点が、海外と比較して日本の強みだと感じています。私は、そうした細かい気配りを忘れずに大切にしています。
目指すはヘッドシェフ!夢へのステップアップ。
——今後の夢や目標について教えてください。
私の目標は、ヘッドシェフになることです。現在、軍艦のポジションで働いていますが、ヘッドシェフが一人いて、サポート役として2〜3人がついて、計4人くらいで仕事をしています。
ヘッドシェフとは全体を仕切るポジションです。ヘッドシェフが基本的に寿司を握り、お客様の食べるスピードを見ながら、出すタイミングや順番を決めます。ヘッドシェフになれば、お給料も上がりますし、こちらにはチップ制度もあるので、月収で40万〜50万くらいのチップが期待できます。そこに到達すれば、月収100万を超えることも可能です。金銭的にもやりがいがありますし、何より最前線で握る仕事は格好良いと感じます。
——最近、海外に寿司職人として行けば、稼げるという話題がよく日本国内で取り上げられていますが、実際に行ってみていかがですか?
お金の面だけで言うと、私は日本にいた時よりも2倍から3倍くらいの給料をもらっています。最初の2ヶ月はチップがないのですが、チップが入れば日本円で言うと3倍くらいになるので、その点だけ見るとすごく良いと感じます。ただ、カナダやアメリカは物価が非常に高いので、感覚的には日本よりは少し良いかなという感じです。
また、こちらには「クビ」があります。もし、単に「海外に行けば儲かるだろう」と考えているだけなら、正直それはやめた方がいいと思います。もし本気で寿司職人としてやりたいと思っているなら、絶対に良い環境だと思います。海外で働いている人たちは、ただ「いるだけ」の人たちではなく、常に技術を磨こう、うまくなろうと考えている人たちばかりです。そういった覚悟があるなら、海外でやるべきだと思います。
——最後に、入学を検討されている読者にメッセージをお願いいたします。
私も異業種からの挑戦だったので、最初は「できるかな?」と本当に不安でした。しかし、人生は一度きりですし、もしお寿司に興味があるなら、寿司職人になりたいと思っているなら、迷わず挑戦すべきです。私が通った淡路島校は特にオススメです。通いやすいですし、実践的に多くのことを学べる環境です。何でも挑戦することが大切だと思いますので、ぜひ一歩踏み出してみてください。
店舗情報
【店名】桶屋久次郎(おけやきゅうじろう)
【住所】1227 Rue de la Montagne Montreal QC H3G1Z2
【問合せ】+1-514-557-1227(完全予約制)
【ブランチ】土・日曜日
12:30〜
【ディナー】水・木・金・土・日曜日
18:00〜/20:15〜
【定休日】月・火曜日
【公式HP】https://okeya.ca/